麦汁のエアレーション
―なぜ、何を、どのようにするのか?―
ビール製造において、酸素はどうしても最小限に抑えたいものであるが、麦汁へのエアレーションは例外だ。
エアレーション以外では、酸素は香りや味に悪影響を及ぼしてしまうが、発酵の初期段階ではその逆である。
酵母は酸素に依存しており、細胞膜の必須成分である脂肪酸とステロールを合成するのに必要な成分を与える。
また、酸素はヘムタンパク質の形成にもつながり、発酵環境において重要な酸化リスクから細胞を保護するのに一役かっている。
この考えは、醸造家にとって特に新しいものではない。長年にわたる大きな課題は、酸素補給の “意味” ではなく “方法”であった。
このように極めて重要な部分だが、麦汁を適切かつ十分にエアレーションすることは、難しい課題となっている。
― 酸素はどのくらい必要か? ―
多くのテキストでは、中程度の比重の麦汁(12°Platoまで)において、8~10ppm(mg/L)の溶存酸素量を標準値として推奨している。
ここで重要なのは、麦汁中の酸素溶解量は麦汁の温度、麦汁の比重、気泡の大きさなどの様々な要因に左右されることを理解することである。
― 酸素が足りなくなるとどうなるのか? ―
多くの醸造専門誌に掲載されている技術データ、およびホワイトラボ社の研究では、麦汁中に利用可能な酸素が増加すると、出芽率が高くなり、その結果、細胞の増殖が進み、より効果的な発酵能力が得られることが明らかになっている。
酸素を添加しない発酵では、酵母は酸素を添加した発酵で得られる細胞量に到達せず、その結果、停滞時間が長くなり、時には予定とする最終比重に到達しないことがある。
そしてエアレーションをした発酵では、エアレーションをしなかったものよりも早く最終比重に到着する。
酵母を使いまわす場合、酸素濃度の低下がその後の酵母の世代に長期的に影響することがある。初期の酵母が十分な酸素濃度を得られないと、後の世代で細胞が弱くなる。これは第3世代以降に最も顕著に出る。これらの酵母の細胞は、強固な細胞壁を構築するための十分な栄養を持たず、その結果、発酵のストレスやビールのアルコール、低いpHの環境に耐えられるグリコーゲンの蓄えや膜を持つ細胞が少なくなってしまったからである。
― 空気と酸素の比較 ―
空気を使う(あるいは振る、その他の物理的な空気の送り方をする)のはいいのですが、効率の面から見ると、理想的な方法とは言えない。大気の21%が酸素であることを考えると、溶解速度が少し落ちていることになる。
この場合、最大溶解度は9.5ppm程度にしかならず、ビール中に酸素を溶け込ませるためには圧をかける必要がある。純酸素を使用する場合、溶存酸素(DO)は最大値の40ppm(飽和)に跳ね上がる。
このほかにも、温度や圧力、流量、エアレーションの時間など、DOが飽和状態に達するにはさまざまな要因がある。
この点に関しては、小規模なタンクとカーボネーションストーンによるエアレーション、あるいは大規模な醸造設備によるインラインのエアレーションなど、効率的な方法を見つけることが重要である。
必ずしも「標準的な」工程があるわけではないが、麦汁へ酸素を溶解させる効率に影響を与える主要な要因がいくつかある。
- 麦汁が冷たいほど、酸素は溶けやすくなる。
- 比重が高いほど、酸素は溶けにくくなる。
- エアレーションの気泡が小さいほど、酸素は溶けやすい。
これらの要因を自社の醸造プロセスと照らし合わせながら、必要に応じ調整する必要がある。