ホワイトラボ『リキッドイースト』を使う時に気をつけたい10点
今回はリキッドイーストをお使いになる際の推奨事項10点をご紹介します。
この事項は、出芽酵母(ビール酵母)を対象とします。ブレタノマイセス(Brettanomyces)酵母や菌、または混合した溶液に関しては、次回の記事にてご紹介します。
1,PurePitch® リキッドイーストパッケージの保管方法
リキッドイーストパッケージは、常に2〜4度の場所で保管してください。
2,新しいリキッドイーストの場合
新しいリキッドイーストは、比重が10〜12°の軽いビアスタイルに適しています。イースト栄養剤を追加して使うことで、発酵に要する時間を早め、良好な状態に保ったまま次回に再利用することができます。
3,イーストの投入準備
リキッドイーストは使うまで、冷蔵庫にて保管します。その際に、冷凍してしまわないよう気をつけてください。投入2時間前には、リキッドイーストを冷蔵庫から取り出し、室温に戻します。投入時には、消毒されたハサミを使って、パッケージの左上部を切り、イースト(酵母)を流し込みます。
4,最初の投入量
容量に対する投入量、初期比重、発酵温度に関しては、以下の図を参照してください。強い味わいを出すためには、麦汁を8〜10ppmの空気に触れさせて酸素を吸収させ、通常よりも少なめにイーストを投入します。
5,投入温度
エールビールの場合、発酵温度は21〜22°Cから始めます。ラガービールの場合は、15〜18ºCが理想です。容器の壁につく茶色い付着物である「クラウゼン」ができれば、温度を好ましい発酵温度まで落とすことで、通常12時間以内に二酸化炭素が発生し、水素イオン濃度(pH)が下がります。酵母の活動を維持するためには、1時間ごとに発酵温度を0.5〜1°C落とします。
6,発酵時間
イーストの再利用回数によって異なりますが、発酵の初期症状は大体12〜20時間以内で見ることができます。何度も再利用されたイーストの場合、発酵の初期症状が出るまでの時間が短くなり、発酵に要する時間も短くなります。イーストは培養された実験室の環境から、発酵の環境に慣れる必要があるため、初回の発酵は1〜3日以上かかる傾向にあります。上面発酵酵母には、通常3〜5日かかり、下面発酵酵母の場合には8〜10日要します。
7,イーストの収穫
ビールタンク内の温度、静水圧、アルコール濃度は、イーストにストレスを与える原因となります。そのため、発酵終了に近づいた時に、できるだけ素早く純粋なイーストを収穫します。灰色の死んでしまったイーストを取り除き、清潔で白いイーストだけを収穫します。この収穫時には、酵母が酸素を吸収しないよう気をつけてください。収穫後は、イーストの温度を4ºCまで下げます。
8,収穫したイーストの保管
イーストはステンレス容器または食品用プラスチック(ポリプロピレン、ポリエチレン)容器にて保管します。この容器はイースト保管専用の容器として使ってください。また、容器には細菌が入ってくるような傷がないか確認してください。常に容器と接続部分は、使う前に清潔で消毒されている状態であることを確認してください。イーストの保管時には、イーストが活性化してしまわないよう、2〜4ºCの環境で、酸素が触れない場所で保管をしてください。もし必要であれば、二酸化炭素の圧力を下げるために、空気を排出してください。イーストが沈殿したり、容器の壁に付着することを防ぐために、溶液をゆっくりかき混ぜたり、降ったりしてください。保管の推奨期間は、最大で1〜3日です。
9,イーストの再投入(再ピッチング)
初回の投入に使われた収穫後のイーストに関しては、再利用時には高いピッチングレート(投入量)で使うことを推奨します。イーストの溶液は、細胞数や生死判定解析、微生物学的安定度検査を行って、ピッチングレートを1Pの麦汁1ml当たり120万個〜200万個の間から決めます。イーストの投入前には、溶液の温度を投入に適した温度までゆっくりあげるようにしてください。
10,複数回にわたるイーストの再利用について
ビール醸造の環境は、実験室での環境よりも清潔ではありません。蒸気や湿度、温度変動、外気、微生物の侵入などは、溶液の汚染につながります。気圧やプロセス加熱、温度変動、アルコールなども、イーストにストレスを与え、イーストの生存力や活力の減少、イーストの突然変異を引き起こします。
そのため、エールビールの場合、イーストの再利用は8〜10回までを、ラガービールの場合は3〜5回までを、ベルギービールや白ビールの場合は3回以下を推奨とします。イーストの収穫や保管環境、イーストの質の安全を保証できない場合には、再利用せずに常に新しいリキッドイーストを使用することをお勧めします。
表 温度と比重に応じたイーストの推奨量*
発酵温度 | > 19ºC | ||
<13.5ºP
<1.053 SG |
13.5ºP – 17.5ºP
1.055-1.072 SG |
>17.5ºP
>1.072 SG |
|
~50L | 500ml | 500-1000ml | 1000ml |
~500L | 1000ml | 1500ml | 2000ml |
~800L | 1500ml | 2000ml | 3000ml |
~1200L | 2000ml | 3000ml | 4000ml |
~1800L | 3000ml | 4000ml | 6000ml |
~2500L | 4000ml | 6000ml | 8000ml |
~3500L | 6000ml | 8000ml | 12000ml |
~5000L | 8000ml | 12000ml | 16000ml |
~6000L | 10000ml | 14000ml | 20000ml |
~12000L | 20000ml | 30000ml | 40000ml |
発酵温度 | 15-19ºC | ||
<13.5ºP
<1.053 SG |
13.5ºP – 17.5ºP
1.055-1.072 SG |
>17.5ºP
>1.072 SG |
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~50L | 1000ml | 1000-1500ml | 1500ml |
~500L | 1500ml | 2500ml | 3000ml |
~800L | 2500ml | 3000ml | 4500ml |
~1200L | 3000ml | 4500ml | 6000ml |
~1800L | 4500ml | 6000ml | 9000ml |
~2500L | 6000ml | 9000ml | 12000ml |
~3500L | 9000ml | 12000ml | 18000ml |
~5000L | 12000ml | 18000ml | 24000ml |
~6000L | 15000ml | 21000ml | 30000ml |
~12000L | 30000ml | 45000ml | 60000ml |
発酵温度 | <15ºC | ||
<13.5ºP
<1.053 SG |
13.5ºP – 17.5ºP
1.055-1.072 SG |
>17.5ºP
>1.072 SG |
|
~50L | 1000ml | 1000-2000ml | 2000ml |
~500L | 2000ml | 3000ml | 4000ml |
~800L | 3000ml | 4000ml | 6000ml |
~1200L | 4000ml | 6000ml | 8000ml |
~1800L | 6000ml | 8000ml | 12000ml |
~2500L | 8000ml | 12000ml | 16000ml |
~3500L | 12000ml | 16000ml | 24000ml |
~5000L | 16000ml | 24000ml | 32000ml |
~6000L | 20000ml | 28000ml | 40000ml |
~12000L | 40000ml | 60000ml | 80000ml |
* ピッチングレートは、ホワイトラボ商品を対象にしたものであり、1ml当たり10億個〜30億個で、推奨濃度は1ml当たり25億個です。実際のイースト細胞数に関しては、パッケージの表示を参照してください。
再利用されたイーストのピッチングレートは、使われる酵母の生存力や活力によって異なります。
発酵を成功させるためには、原材料の扱い方、麦汁の製造、醸造器材、温度や溶存酸素量、時間などの発酵状態など、様々な要素が関わってきます。そのため、以上のピッチングレートはあくまでも目安で、その質を必ずしも保証するものではありません。作り方やプロセス、使用している器具によって、多少の調整が必要な場合もあります。