Grain-to-Glass #2
ドッコイサワーのベルリーナー・ヴァイセ
夏!夏真っ盛りの蒸し暑い季節になると、日本全国で夏祭りが開催されます。そんな夏祭りに欠かせないのが、「ビール」ではないでしょうか?
夏祭りにぴったりなビールをお題に、HINO Brewing(ヒノブルーイング)のビール職人代表のショーン氏と私は、5月末に開催された関西クラフトビール祭り「Kansai Craftbeer Live」で熱く語り合ったのを覚えています。喉がカラカラだった私たちは、軽くてリフレッシングで、酸味があるビールが最高だと言い合っていました。それから3ヶ月たった今、そのサワービールをこの夏真っ盛りの祭りで飲むことができます。その名も「Berliner Weisse (ベルリーナー・ヴァイセ)」!
そのベルリーナー・ヴァイセと同じ材料を使って私とショーン氏が一緒に作ったビールが『ドッコイサワー』です。ヒノブルーイングの初サワースタイルビールで、夏に合うこと間違いありません。この美味しいサワースタイルビールについて詳しく解説する前に、ドイツで有名なサワースタイルビールをいくつかご紹介します。
HINO Brewingのホップ畑で発酵中のドッコイサワーのテスティング
Berliner Weisse (ベルリーナー・ヴァイセ)
ベルリーナー・ヴァイセの歴史は長く、16世紀末まで遡ります。当時サワースタイルビールといえば、ゴーゼ、ブロイハン、グレッツァー、リヒテンハイナーなどが、ドイツ北部で親しまれていました。この時代には、ベルリンで乳酸菌が自然に含まれた小麦ビールが製造されていました。この乳酸菌が、 ビールに酸味が出る理由です。この酸味の濃度は、歴史的文献によると、醸造所や樽ごとによって大きく異なっていたとのこと。時には飲めないほど酸味が強くなることもあり、違う樽の中身を混ぜることで一定の酸味のあるビールを作っていました。この方法は、現代でもベルリン最大のベルリーナー・ヴァイセ醸造所で使われています。現代では、普通のビールと酸っぱいビールの2つをつくって混ぜ合わせることで、適切な酸味のサワービールをつくっています。また、ウッドラフなどのハーブで味付けを行うことで、全体的にバランスの取れた味付けに仕上げることもあります。現代でも、昔と同様にウッドラフやイチゴシロップを味付けに使ったサワービールを多くのお店で見つけることができます。
現代のスタイルのベルリーナー・ヴァイセは、18世紀末につくられ19世紀に人気を集めたもので、ベルリンの数何百もの醸造所で作られました。長年の知識を用い、以前よりも質の高いベルリーナー・ヴァイセが作られました。この時に課題となったのは、ホップの苦味が酸味と上手く合わないことでした。ホップなしでビールをつくることは可能ですが、多くの醸造所ではビールの質を落としたくないとのことからホップを使う傾向にありました。ホップは特に、例えば糖化された麦汁と麦芽カスを分けるときにフィルターとして使われるなどの役割もありました。そのため中には、別の樽でホップを沸騰させてできた「マッシュ」をメインのビール樽に混ぜ合わせてつくる醸造所や、水と一緒にホップを沸騰させて、ホップ水をマッシュに混ぜることでビールを作るところもありました。また、ホップを一切使わずにつくる方法もあります。ホップが使いづらいこともあり、醸造所の中には麦汁を沸騰させないところもありました。ろ過後には、麦汁を冷まし、出芽酵母やブレタノマイセス、乳酸菌などを含む、酵母とバクテリアを混ぜて培養したものと直接混合させます。バランスを保ち、鮮やかな色の炭酸を加えるためにも、ボトルに入れて保管されるようになったのも、この頃です。
そして、現在の形のベルリーナー・ヴァイセまで仕上げたのは、フランダース地方からベルリンに移住してきたベルギーのユグノー移民醸造家たちだと言われています。20世紀初頭に、彼らはベルギースタイルのサワービールの醸造方法をベルリーナー・ヴァイセに活用したとされています。
その結果、ベルリーナー・ヴァイセは、とても色が薄く、アルコール度数が低く、ほんのり酸味を感じながらも炭酸を強く感じるサワービールに仕上がり、現在もベルリンを中心に多くの人に親しまれています。
ベルリーナー・ヴァイセの種類
ベルリーナー・ヴァイセ(Berliner Weisse)
シャンクビアー(Schankbier)の種類で、初期比重が7〜9ºP、アルコール度数が4%以下ドッペル・ヴァイセまたはフォルヴァイセ(Doppel Weisse/ Vollweisse)
ベルリーナー・ヴァイよりも強めで、初期比重が11〜14ºP、アルコール度数4〜6%メルツェン・ヴァイセ(Märzen Weisse)
3月に醸造される、ベルリーナー・ヴァイセよりも強めのビール。濃いモルトと一緒に醸造されることもある。サンドワイス(Sandweise)
ガラス瓶に入ったベルリーナー・ヴァイセのことで、砂の中で長期間保管される。スタインワイス(Steinweisse)
土の中にある硬質陶器のボトルに入ったベルリーナー・ヴァイセのこと。ヴァイセミットシュトリッペ(Weisse mit Strippe)
キャラウェイ蒸溜酒と一緒に飲む、ベルリーナー・ヴァイセのこと。ゼロ・ヴァイセ(Zero Weisse)
飲めないほど酸っぱくなったベルリーナー・ヴァイセのこと。リースリング・ヴァイセ(Riesling Weisse)
ボトルに入ったベルリーナー・ヴァイセで、3、5、 7、9、11年などの期間保管されたもの。エーデルワイス(Edelweisse)、シャンパン・ヴァイセ(Champagne Weisse)とも呼ばれています。
ドッコ・イサワー
ドッコイサワーは、伝統的なベルリーナー・ヴァイセを現代風に、ボディが軽くてアルコール度数が低いビールに仕上げたものです。ケトルサワー方法、デルブリュック乳酸菌を用いてつくることで、まろやかでリフレッシングな酸味を実現しました。50%の小麦モルトから出たビスケットのような味わいが加わります。ホップを後から加え、フランス産の「Barbe Rouge」ホップをドライホッピングで加えることで、ベリーの甘みで風味のニュアンスをつきました。
OG(初期比重): 1.038
FG(最終比重): 1.008
ABV(アルコール度数): 3.9%
IBU(国際苦味単位): 20
pH値: 3.5
SRM(色度数): 2.6
ドッコイサワーでは、一口目に苺などの赤いベリー系の香りを感じ、新鮮なハーブの味わいが後から広がります。口の中では、やわらかな酸味と、ラズベリーの味わいが組み合わさります。炭酸があることで、とても喉ごしのいいビールに仕上がっています。また、小麦モルトの特性がみられることで、全体的にバランスの取れたビールになっています。軽いボディで、キレのある喉ごしに苺の後味を感じることで、すぐに飲みきってしまうこと間違いありません。