フルーツビールについて
―ビールにフルーツを加える―
前回述べたように、ビールにフルーツを加えるというのはとても古くからおこなわれていたことです。
ただし加えるフルーツはチェリーやラズベリーのみでした。
その後、多くの種類のフルーツを加えたビールが誕生しました。
現在ではアメリカのクラフトビール醸造所などによりさらに多くの種類のフルーツを使ったビールが誕生しました。
そして今なお、新たなフルーツを使った新しいビールを開発し、素晴らしいフルーツビールがどんどん生まれています。
今回は実際ビールにフルーツを入れる方法、注意点などについて紹介していきます。
―適切なフルーツ―
ビール造りにおいてフルーツを使うといってもやり方はとても多くあります。
フルーツにはたくさんの種類がありますし、同じフルーツでも加工の仕方によりさらにその使い方は無限に広がります。
しかし、フルーツを使う前にそのフルーツについて調べ特徴や性質からより適切な仕込み方法を考えなければ失敗してしまうことがあります。
イチゴやチェリーのようなベリー、リンゴ、モモ、アンズ、モモなどをビールに使うことがあると思います。
これらのフルーツには多かれ少なかれペクチンが含まれています。
ペクチンが含まれているフルーツを使う際には気を付けなければ、ビール造りで大きなトラブルを引き起こすことになります。
ペクチンが含まれているフルーツを煮込むとジェルのようなとろみが出てきます。
ジャムを作る際にとろみが出てくるのはこのペクチンによるものです。
ビールを作る際、マッシュの段階やボイルの段階でペクチンの含まれるフルーツをすると、ペクチンの性質によりビールにとろみが出てしまいます。
とろみのあるビールというだけでも問題だと思いますが、仕込みの段階でとろみが出た場合はロイター盤や配管内で詰まってしまうリスクがあります。
これは一つの例ですが、ビールにフルーツを使う際はそのフルーツについて調べ、特徴や性質を理解しておかなければトラブルを引き起こす可能性があります。
―ビールの種類―
フルーツを入れる際にどんな種類のビールにフルーツを入れればいいか考えると思います。
ただ、どんな種類のビールにもフルーツを加えられるというものではありません。
ビールには数多くの種類がありそれぞれに味が異なります。
それに合うかどうか考えなければいけません。
一般的に明るい色のビールの方が濃い色のビールよりもフルーツを使うのに適していると言われています。
またホップをたくさん使用したビールはフルーツビールに適していません。
フルーツの酸味とホップの苦みの組み合わせはえぐみになってしまい好ましくない味になってしまいます。
これらのことにより、フルーツビールのベースとして使用されることの多いビールは小麦を使用したビール(ベルジャンホワイトやヴァイツェン)です。
小麦ビールには多くのフルーツの味がとてもよくマッチします。
ただし、すべての種類で実験したというわけではありません。
新しい組み合わせで今までにはなかった素晴らしいビールが生まれるかもしれません。
「Designing Great Beers」の著者であるRay Danielsさんはアメリカのホームブリューイング大会にて、2回戦に進出したすべてのフルーツビール調べ、その傾向をまとめています。
その結果、ほとんどのビールは明るい色のビールで、SG1.050前後、24~28IBUでした。
ただ、ポーターやスタウト、ボックビールなどの種類も少しですが含まれていました。
そしてほとんどのビールにおいてホップはレイトホップ(煮込みの最後10分程度に投入する)やドライホップ(発酵中、もしくは発効後に投入する)として使われ、使われていたホップはSaaz,Cascade,Hallertau,Tettnangerといったアロマホップでした。
イーストはイングリッシュイーストが多く使われていましたが、上面発酵イーストだけではなく下面発酵イーストもエステルなどの香りが少ないということで使われていたようです。
―形状と量―
フルーツをビールに使用する際、次に考えなければいけないのは、そのフルーツの加工と使用量です。
フルーツを使う際には生のフルーツ、ピューレ、エクストラクト、シロップなどがあります。
加工したフルーツを使用する際には、加工中にフルーツが野生酵母などにより汚染されていないかも気を付けなければなりません。
また、加工中に砂糖などを使用しているかどうかも重要です。
加工品の中でもジャムを使用するのはあまりお勧めをしません。
前に述べたようにジャムには多くのペクチンが含まれているうえに砂糖もたくさん使われています。
使用するフルーツは、味や香りを強く出すためにもフルーツは熟したものを使用するのがおすすめです。
加工済みのフルーツを使う方が生のフルーツを使うより簡単です。
生のフルーツは野生酵母やバクテリアのより汚染されているリスクがとても高いため対策を取らなければいけません。
これについては次のセクションでお話しします。
では、ビールにフルーツを加える際に一体どれだけの量を使用しなければいけないのか考えてみましょう。
だいたい1000Lのビールに対してフルーツは100~250㎏の生のフルーツを使います。
しかし、これはベースとなるビールの種類にもよりますので最初は少ない目で投入して味をチェックしながら量を増やしていくことがおすすめです。
前のセクションで紹介しましたRay Danielsさんがビールに加えるフルーツの量についても調べ、本の中で紹介しています。
その表を下に貼り付けます。
表を見てわかるように味、香りの弱いフルーツは量を多く入れ、濃いものは量を少なくします。
1Lあたりに加えるフルーツの量 (Designing Great Beers R.,Daniels,2000) |
|
---|---|
フルーツ | g/L |
チェリー | 240 |
イチゴ | 220 |
マンゴー | 190 |
ラズベリー | 160 |
ブラックベリー | 120 |
パッションフルーツ | 95 |
もし、エクストラクトやシロップを使用する際はその濃縮率をしっかりと調べそれを踏まえて入れる量を決めていかなければなりません。
ただ、生のフルーツを使用するよりもビールに混ざりやすいために変化はすぐにわかるので、味見をしながら量を増やしていけば適切な量が簡単にわかります。
注意しなければいけないところは、シロップに含まれている砂糖です。
砂糖によりビールは再び発酵を始めます。
それによりアルコール度数が上がってしまうことはもちろんですが、貯種タンクや瓶詰前のビールに加えた場合は、ビールのガスボリュームが高くなります。
あまりにも砂糖の量が多い場合はビンが破裂する恐れもあります。
―タイミングと投入方法―
生のフルーツを投入するタイミングはボイルの後と発酵後の2か所があります。
エクストラクトやシロップの場合はラガリングの段階がおすすめです。
糖分の入っていないエクストラクトの場合はボトリングの直前がおすすめです。
生のフルーツを加えるタイミングは発酵後の方がおすすめです。
その方がフルーツの味や香りがダイレクトに感じられます。
ただし、当然ですがフルーツの糖分で再発酵してビールのガスボリュームが増えてしまいます。
またリスクは低いですが汚染の可能性もあります。
―煮沸後の投入―
生のフルーツの枝とへた、種を取り除き、その後ピューレにします。
煮沸後、麦汁の温度が85~90℃になったタイミングでピューレを投入します。
この温度帯では大抵の微生物が20分程度死滅します。フルーツの加えた麦汁は定期的に混ぜることにより、より香りが麦汁へ溶け込みます。
20分後、フルーツをフィルターなどにより取り除き麦汁を冷やし発酵タンクに移動させていきます。
ただこの方法を行う場合は大量にフルーツを使わなければいけなくとても面倒です。
もしも滅菌済みの生フルーツを使用する場合は、フルーツを投入後に20分待たなくてもかまいません。
―発酵後の投入―
生のフルーツの枝とへた、種を取り除きます。
大きなフルーツの場合はピューレにします。小さくて柔らかいフルーツ、例えばチェリーやブルーベリー、ラズベリーはそのまま使用できます。
加工後のフルーツは80~85℃のお湯に20分ほどつける、もしくは亜硫酸塩溶液に半日ほどつけその後お湯で洗い流し滅菌します。
フルーツを数日間冷凍させるというのもとても効果的です。
ただほとんどの菌類は冷凍させただけでは死滅しませんので滅菌のためではありません。
フルーツのセルロースを破壊するために冷凍させます。
セルロースを破壊することによりフルーツの味と香りをより多く、より早くビールに溶け込ませることができます。
冷凍後のフルーツは霜を取り、フルーツの温度をビールと同じになるまで温度を上げて投入します。
なぜビールと同じ温度に戻すかというと、イーストに温度差によるショックを与えないためです。
生のフルーツを若いビールに直接入れることも可能です。
ただしその場合は後でフルーツのカスをフィルターで取り除いたり、フルーツを沈殿させサイフォンなどで上から吸い上げるように瓶詰めしなくてはいけません。
シロップやエクストラクトは発酵後に投入します。
フルーツを投入後のビールは、2~3週間発酵が終わるまで待ちます。
生のフルーツやシロップには発酵に使える糖が含まれているためにビールが再発酵します。
通常のビールの発酵よりもこの発酵は時間がかかります。
その後、フルーツを取り除き瓶詰をします。
―糖度の変化―
フルーツには糖分、それと水が含まれています。
この糖度は1つ1つのフルーツによって変わってきます。
フルーツの糖度と麦汁の糖度によってアルコールは決まってきますので、狙い通りのアルコール度数のビールを作るのはとても難しいです。
もし濃縮果汁やエクストラクトを使用する場合は、その糖を調べるだけなので簡単です。
―まとめ―
フルーツビールは見た目も華やかで、フルーツのとてもいい香りがし、ビールが苦手な人でも飲めたり、地元のフルーツを使って地域活性を目指したりと、フルーツビールを作るメリットはとても多くあります。
ただ、いま作っているビールにフルーツを加えるだけの簡単なものではありません。
その使うフルーツについて調べ、それに合うビールを考え、製造方法を試行錯誤し、多くの時間と労力がかかります。
それを怠ると楽しみにしていたお客様も、フルーツを作ってくれた農家様も裏切ってしまいます。
簡単な考えで作れるものではありませんが、可能性は無限大にあります。
新しい発見、醸造所の発展、地元への貢献、いろいろな目標をもってフルーツビールを作ってみるのはいかがでしょうか?