アルザス – 特別なホップ栽培地 –
『Hop France』の代表のAntoine Wuchner氏へのインタビューです。
アルザス(フランス)の地方はワインが有名です。リスリング、ゲウイルツとラミナーなどの特別なワインが日本でも買えます。
しかしアルザスはワインだけではなく、ビールの文化も有名です。実は、アルザスのストラスブルグでフランスの一番大きいブルワリー「Kronenbourg」が設立されました。17世紀の中旬フランスでブドウの収穫があまり良くなくて、ワインが大変高くなりました。
その結果、ストラスブールで1664年初めてブルーパブがオープンになって、お客さんにワインの代わりに美味しいビールを出しました。そのブルーパブから現在フランスのビール大手クローネンブルグが生まれました。だから今もクローネンブルグの一番の人気なビールは「1664」といいます。その時から現在までアルザスには、豊かなビール文化があります。
ホップはビールの大切な原材料ですので、ビールが広まるとアルザスがホップの産地になりました。現在フランスのホップの99%でアルザスで育てられています。フランス産のホップを世界にブルワリーに紹介するため、アルザス地方のHochfelden郡に拠点をもつ、フランスの農業貿易会社Comptoir Agricoleが『Hop France』というブランドを創設しました。
『Hop France』の代表のAntoine Wuchner氏に、ホップ栽培が盛んなアルザス地方について、Hop France創設の意図、そしてフランスのホップの未来の展望についてのインタビューです。
Q:Antoine Wuchner氏、フランスにはホップ栽培の長い歴史がありますが、アルザス地方における伝統について教えてください。
Antoine Wuchner氏: アルザス地方のホップ栽培は、現地の醸造業と深い関係があります。この地域での最初のホップ栽培は、フランス革命の時代に遡るほど古いものです。代表的な品種である「ストリスルシュパルト(Strisselspalt)」は、1885年に市場に出回りました。
そこから、アルザス地方のホップ栽培は、時代の変化に伴って変化を遂げてきました。
Q:アルザス地方のホップ栽培面積はどれくらいで、収穫量はどれくらいありますか?
ホップ栽培面積は今日、465ヘクタールあります。収穫が一番少なかった時期に比べると、100ヘクタール以上大きくなっています。品種の種類も、最も多いストリスルシュパルト以外にも、15の品種が44の生産者によって作られています。
ホップの育成プラグラムは、2001年に開始されました。このプログラムを通じて、新種2種である、アラミス(Aramis)とトリスケル(Triskel)が栽培されるようになりました。
その他にも、MistralやBarbe Rougeの新種も市場にも出回るようになりました。 収穫量は、品種や土壌のコンディションにはよりますが、大体1ヘクタールに1.6〜2.1トンあります。
Q:アルザス地方はホップ栽培地として、どのような点で特別ですか?
アルザス地方で収穫されるアロマホップは格別です。この地域の一貫した品質のホップは、気候と土壌、そして経験豊富な農家の人たちによって実現しています。
アルザス地方のホップは、その洗練された別格で多様な香りのホップとして世界中で有名です。
Q:ストリスルシュパルトはアルザス地方で一番有名なホップ品種ですが、どのような特性がありますか?
ストリスルシュパルトはアルザス地方の伝統的品種で、アルファ酸含有量が低いアロマホップです。このアロマは特に洗練された繊細なものとして、ストリスルシュパルトを愛し知り尽くす多くのブリューワー(醸造者)たちからも評価されています。世界中で広く使われており、多くの有名なビールにも使われています。
また、この特別なホップ品種は、私たちのホップ育成プログラムの基盤ともなっています。
プログラムの主な目的は、アルファ酸含有量(アラミス)を改良し、Triskel、Barbe Rouge、Mistralのような異なるアロマ品種を作るところにあります。
Q:アルザス地方で栽培されていて、Hop Franceによって生産されているその他の品種にどのようなものがありますか?
アルザス地方で栽培されるホップはすべて、アロマ品種のものです。
約95のホップ栽培地で、この品種が栽培されています。 アルザス地方では15種の品種が栽培されており、ストリスルシュパルト種が最も多く栽培されている品種です。
次の2、3年の間に新しい品種である、Aramis、Triskel、Barbe Rouge、Mistralの栽培も増やす予定です。今後、これらの品種がもっと知られるようになると思います。
また、アルザス地方発祥の品種ではありませんが、FugglesやGoldings、Traditionの品種もアルザス地方では栽培されています。その他の品種はニーズによりけりで、中にはColumbusやNuggetの苦いホップ品種も栽培されています。
そして、アルザス地方ではアルザス発祥の品種が注目を集めています。オーガニックなホップへのニーズが高まる中、アルザス地方でも農家の人たちの中には、栽培地をオーガニック栽培に変えようとする人もいます。3年間くらいの間には、多くの栽培地がオーガニック専用に変わっていくと思います。
Q:アルザス地方には、どれくらいのホップ農家がいますか?Hop Franceでは、生産者の方たちをどのようにサポートしていますか?
アルザス地方には、44のホップ農家が存在しており、すべての農家がComptoir Agricole社に所属しています。
2018年には、その生産エリアが465ヘクタールまで広がっています。
また、Comptoir Agricole社では農家の方たちに、技術的相談から管理業務のアシスタントなど様々なサポートを提供しています。他にも、定期的集会を開いており、農家の方たちが情報交換ができる場所も提供しています。
また、私たちComptoir Agricole社は、ホップの品質管理・技術管理サービスを農家の方たちへの主なサポートとしています。私たちは、アルザス地方のホップ生産の代表として、売上から販売までを担っています。
Q:農家の人たちへの技術的サポート、売上や販売の提携サポート以外に、品質管理と新種ホップ育成プログラムもHop Franceのポートフォリオに含まれています。これらに関して、あなたはどのような役割を担っていますか?
私たちはHACCPプログラムを立ち上げ、品質管理を行っています。
そこではホップの水分量、アルファ酸含有量を分析しています。全部の農家と品種において、一つ一つまたは混合したサンプルとして分析が行われています。これらは残留分析の方法で行われています。また要望があれば、放射能、重金属および硝酸塩が含まれていないかも確認できます。
育成プログラムに関しては、2001年に開始され、毎年20万ユーロ(約2500万円)のコストがかけられています。 これまで産出してきたフランスのホップ新種は、このプログラム内で作られています。最初に作られたのが、Aramisです。
また他の組み合わせで、例えば病気や乾燥環境に強い品種などの新しいアロマ品種を育てようと考えています。
Q:アルザス地方のホップを使うことに興味のあるブリューワー(醸造者)にはどのようなサービスを提供していますか?
興味のあるブリューワーはいつでもお問い合わせください。私たちは自分たちが作る商品に誇りを持っていますし、アルザス地の生産地を喜んでお見せします。実際に見てもらえれば、私たちの働き方や、私たちがホップ業界の他社とどう違うかも知ってもらえると思います。そして私たちに栽培に最適な環境を与えてくれるアルザス地方を見てもらうこともできます。
もちろん、ブリューワーにはサンプルホップを提供しているので、実際にどのようなビールを作ることができるか見てもらうこともできます。ブリューワーの方たちにアドバイスやアシスタント、私たちの品種を最大限に活用するための方法を実際にお見せすることもしています。
また、品質確保のために、私たちのホップが最適な状態で配送されるよう管理も行っています。通常、低温で保管しており、注文があり次第、別々にして個別で配送をします。正確なホップの分析も品質管理のために行われています。
Q:ホップ部門はこれまで、農業貿易のComptoir Agricole社の一部でしたが、今回なぜHop Franceとして独立させたのですか?
2年前、フランス中から新規のホッププロジェクトの問い合わせが殺到したことがあります。業界のリーダーである私たちComptoir Agricoleは、私たちのホップ商品からベストな結果を生んでもらうために、様々なアイディアを試しました。
トレーニングの提供、サンプルの提供、EU圏の条件にあった量の生産などを行いました。 Hop Franceは、統一した特別なブランドとして認知してもらうために、設立されました。アルザス地方のホップ品種をHop Franceの後援のもと市場に出すためには、証明書が必要となっています。
Q:今後、Hop Franceにはどのようなことを期待していますか?Hop Franceを新しいターゲット層に今後リーチしていきたいとお考えですか?
私たちは、自分たちの品種が、フランス国内または海外であっても、一定のレベルの品質で管理されるように努めたいと思います。 Comptoir Agricoleの傘下で運営をしていますが、Hop Franceというブランド名があることで、どの商品が私たちのものかすぐに分かってもらえると思います。
これにより、今後私たちが貿易フェアや顧客訪問時にも、Hop Franceとして認知してもらえると考えています。
Q:輸出販売は、フランスのホップ栽培において大きな役割を担っていますか?
アルザス地方のホップの70%が海外で販売されています。ですが、私たちにとって国内市場に重きを置いています。提携先を通じて、海外ではベルギー、英国、スペイン、イタリア、そして米国、カナダ、日本など数多くの国にホップを提供しています。
これらすべての国では、アロマホップは一番人気です。私たちが次に目指すのは、南アメリカでの販売戦略の展開と売上を出すことです。
Q:アルザス地方でのホップ栽培において、どのような課題がありますか?
私たちは、農家の方たちがホップ栽培から、安定した持続的な収入を得ることができるようにしたいと思っています。アルザス地方でのホップ栽培には長い素晴らしい歴史があります。
この伝統が今後もこの地に長く残ることができるようにしたいのです。そのためには、今後新しい品種を育て、ブリューワーが満足できる高品質なホップを提供したいと思っています。アルザス地方は今後も高品質で、洗練されたアロマホップのユニークな栽培地として残ることができるよう努めたいと思います。
Q:Hop Franceの今後の展望は何ですか?
短期では、育成プログラムを復活させたいと思っています。このプログラムのメインの目的はもちろん、フレッシュで魅力的なアロマの香りのあるホップを育て、販売することです。
また農家の方たちに関しては、収穫量を増やし、生産過程をもっと環境に優しいものにしたいと思っています。これらの分野で努力が報われれば、今後生産のエリアをさらに拡大できると考えています。