E2U™を使用した醸造 – 酵母の再水和が不要に
Gino Baart著
活性乾燥酵母は、ここ10年ほどで品質が飛躍的に向上し、製品の選択肢も大幅に広がりました。その結果、ビール業界で広く採用されるようになっています。活性乾燥酵母の製造は、純粋な液体培養液をバイアルから取り出すところから始まります。その後、好気性発酵槽で、容積を増しながら段階的に酵母を増殖させていきます。最終段階の生産発酵槽でも、酵母は好気的条件下で増殖されます。増殖した酵母は遠心分離によって回収され、回転式真空フィルターで乾物含有率約32%まで濃縮されます。その後、「流動層乾燥機 (fluidized bed dryer)」という装置で乾燥処理が行われます。この装置により、迅速かつ均一に、酵母を保護しながら乾燥が進められます。さらに、再水和の耐性を高めるため、酵母には保護コーティング(通常は植物由来の乳化剤であるソルビタンモノステアレート (MSS) )が乾燥直前に施されます。
最終的に得られる酵母粉末(図1参照)は、乾物含有率94〜97%の状態にまで仕上げられます。製品は、酸化や湿気の影響を防ぐために真空包装され、最長で3年間保存できます。保存可能期間が長いことは、活性乾燥酵母の大きなメリットのひとつです。加えて、ブルワリーでの生産管理の観点から見ても、液体酵母の増殖工程を活性乾燥酵母に置き換えるメリットがさらにいくつかあります。例えば、コストの大幅な削減、酵母の品質管理が不要(サプライヤー側で管理が完了)、産スケジュールの柔軟性がはるかに向上する点などが挙げられます。液体の酵母増殖と比較しても、活性乾燥酵母の準備にかかる時間はわずかで、考慮する必要はほとんどありません。なお、いまだにインターネット上では、「液体培養酵母のほうが活性乾燥酵母よりも発酵の効率性が高く、より高品質なビールができる」といった意見が散見されますが、そのような主張はすでに複数の学術研究によって否定されています。実際には、発酵や乾燥の工程、それらに関連するレシピは、再水和や発酵開始時に、酵母がその活力・生存率・純度を最大限に発揮できるよう設計されています。現在では、活性乾燥酵母を使用して醸造された高品質なビールや、受賞歴のあるビールも数多く存在します。

図1:製品包装前の活性乾燥酵母粒子(光学顕微鏡画像)
通常、活性乾燥酵母を発酵に使用するには、再水和を行う必要があります。一般的な再水和手順としては、必要量の酵母を、酵母重量の10倍量の無菌水またはホップ入り麦汁に均等に振りかけます。水温は酵母ごとに定められた適した温度範囲に設定し、やさしくかき混ぜながら指定の時間そのまま静置します。次に、クリーム状になった酵母を発酵槽に投入します。
この標準的な再水和手順が有効であることはこれまでの研究で明らかになっていますが、最近行われた新たな比較研究の初期結果によると、次の3つの再水和方法の間で発酵性能に目立った差は見られませんでした。
- 30℃のぬるま湯で穏やかに撹拌しながら再水和する方法
- 15°Pの麦汁に投入し、20℃で穏やかに撹拌しながら再水和する方法
- 再水和を行わず、そのまま発酵槽に直接投入する方法
この結果は、以下のすべての酵母で確認されました。
- 試験酵母
(SafAle™ S-04、SafAle™ US-05、SafAle™ K-97、SafAle™ S-33、SafAle™ WB-06、SafAle™ BE-256、SafAle™ T-58、SafAle™ BE-134) - ラガー酵母
(SafLager™ S-23、SafLager™ S-189、SafLager™ W-34/70)
発酵終了時点において、エタノール、残糖、揮発性成分(アセトアルデヒド、エステル類、高級アルコール、ビシナルジケトン)の濃度には、再水和方法の間で有意差は見られませんでした(図2参照)。この結果は、再水和せずに直接投入する方法が発酵に十分効果的であることを示しています。

図2 – SafAle™ US-05(ピッチングレート:50 g/hL / 15°P / 20℃)を用いた発酵性能および、3通りの再水和方法(各3回の試験)での発酵終了時のエタノール、残糖、揮発性成分(アセトアルデヒド、エステル類、高級アルコール、ビシナルジケトン)の濃度。
DP: 再水和をしない直接投入(ダイレクトピッチング)
W: 30℃のぬるま湯で穏やかに撹拌しながらの再水和
15°P: 15°Pの麦汁で穏やかに撹拌しながらの再水和
実際のダイレクトピッチングの手順は以下の通りです。
- 発酵槽に麦汁全体量の1/3を投入します(CKTコーン上端まで)。麦汁温度は21~29℃にします。
- 活性乾燥酵母を、発酵槽内にそのまま直接振りかけます。
- 残りの麦汁2/3を発酵温度を保ったまま追加し、酵母と麦汁が自然に混ざるようにします。
新たな方法としてこのダイレクトピッチングを取り入れることで、活性乾燥酵母の再水和工程を省くことができ、実際の発酵作業がさらに簡単になります。
※本記事は下記英文記事の翻訳です:
Gino Baart, Brewing with E2U™: No more rehydration needed.
https://fermentis.com/en/knowledge-center/expert-insights/beer/brewing-easy-2-use/
著者情報
Gino Baart
ファーメンティス・セールスマネージャー(北欧担当)
Gino Baart(1973年生)は、醸造のプロフェッショナルであり、微生物細胞の生理学・代謝について深い専門知識を持つ。また、食と栄養およびバイオテクノロジー分野で博士号、バイオプロセス工学で修士号、化学工学で学士号を取得しており、発酵分野への造詣が深い。
研究機関や大学で、学術・技術・マネジメント各分野の幅広い経験を積んだのち、現在は活性乾燥酵母のスペシャリスト企業であるファーメンティスのテクニカルセールスマネージャーとして勤務。ブルワーや蒸留家、ワインメーカーが理想とするアルコール飲料を作れるよう支援している。