『 ビールと日本茶 』
ビールに加えるスパイスについて以前お話いたしましたが、やはり日本ならではのものを使うことが多いと思う。
その中でも多くの日本の醸造所が使っているのがお茶、特に日本茶である。
今回はそんな日本茶を使ったビールについて考えていきたい。
付知茶Hazy IPA (Y.MARKET BREWING)
醸造長の実家、付知町の新茶を使用
柔らかな青葉の香りとホップと合わさった苦み
ヘジーIPAらしい甘さと合わさり抹茶ラテのよう
―お茶―
お茶を使ったビールはなにも日本だけの話だけではない。
世界的中いろいろな国でお茶を使ったビールは作られている。
ヨーロッパやアメリカで使われるのは主に紅茶やハーブティーである。ハーブティーは様々なハーブやスパイスをブレンドして乾燥させたものである。
これもお茶ではあるが、いわゆるお茶の葉っぱは使用していない。
紅茶は緑茶と同じお茶の葉っぱを使用して作られる。摘み取ったお茶の葉っぱを揉みこんで完全発酵させて作る。
発酵といっても微生物によるものではなく葉っぱにある酸化酵素によるものである。紅茶は茶色をしており、味も香りもしっかりとしている。
世界中で作られておりアッサム、ダージリン、セイロンなど多くの種類がある。
最近海外で少しずつビールに使われだしているのはウーロン茶である。
紅茶同様に摘み取ったお茶の葉っぱを揉みこんで発酵させるということは同じだが、発酵途中で加熱し発酵を止める半発酵茶である。
日本でも少し作られてはいるが主に中国で作られている。
紅茶のように茶色をしており独特な爽やか香りと、少し日本茶に近い味がする。
海外ではほとんど使われることはないが日本といえばやはり緑茶である。
紅茶やウーロン茶とは異なり発酵をさせず、摘み取ったお茶の葉っぱを揉み、加熱する。
ほのかに緑色をした黄色で、お茶の葉っぱ本来の青い香りとやさしいながら複雑な味が特徴である。
さて、いろいろなお茶が世界中で作られておりビールにも使われているが、やはり日本らしく今回は日本茶を使用したビールについて話していく。
Ochame Green Tea IPA(Godspeed Brewery)
オーナーが⽇本で所有する茶畑よりとれた緑茶を使⽤
抹茶のような柔らかな甘い香り
ホップとお茶の苦みと渋みが感じられる味
苦みはしっかりと強い
― 日本茶 ―
日本茶には一般的にイメージする煎茶(緑茶)のほかに、ほうじ茶や抹茶などがある。
ほうじ茶は緑茶を焙じた(ローストした)お茶である。緑茶とは異なり茶色をしたお茶でありローストされた香ばしい香りがあり、緑茶にある苦みや渋みはほとんどなく飲みやすい。
抹茶は緑茶とは全く違った作り方で、摘み取ったお茶の葉っぱを低温で加熱し、それを臼で粉末にしたものである。
お茶の葉っぱ自体に光合成をあまりさせないようにして作られており鮮やかな緑色をしている。
味はあまり強くなく苦みや渋みが少しある。
大きく分けると日本茶にはこの3種類がある。では実際ビールに使うにはどの日本茶が最適なのか。
個人的にはほうじ茶が最も相性がよく使用しやすいと思う。
なぜならほうじ茶が日本茶の中で最も香り、味が強くビールに加えてもしっかりと主張してくるからである。
またほうじ茶のローストした香りは麦芽のロースト香との相性も良くうまくマッチさせられる。
一方煎茶ですが、煎茶の特徴ともいうべき黄色っぽい緑色ですがビールに加えると完全に負けてしまい色を確認することはできない。
また味に関しても、しっかりとした味のあるビールの中では主張することが難しく、量をたくさん加えた場合渋みが強く出てしまい非常に飲みにくくなってしまう。緑茶ならではの特徴をビールに合わせるのは難しい。
最後に抹茶に関してだが、これは最もビールには適さないお茶だと思う。
抹茶の最も重要で唯一といってもいい特徴はあのきれいな緑色だ。
ただこの緑色をビールで出すのはほぼ不可能に近い。
ビールの色は黄色から黒色だが、抹茶の緑色を加えたところで緑色になることはない。
ホワイトビールのように薄い黄色にしたところで抹茶の緑色を加えても少し色がくすんだアンバーに近づくぐらいだ。
また、抹茶自体が粉末であるためにビールに加えても時間がたてばそこに沈殿してしまう。
飲む直前に振れば混ざりはするが、炭酸の入っているビールを振るということはあまり現実味がない。
そしてビールに長時間抹茶を漬け込んでおくと抹茶が酸化してしまい汚い茶色になってしまう。
色以外の味や香りを出すという考えもあるが、抹茶の味と香りはとても弱くビールに加えて主張させるには結構な量を入れなくては出すことができない。
それをするぐらいでしたら緑茶を使ったほうがはるかに効率いい。
日本におけるドイツ(バイエルンマイスタービール)
宇治抹茶を使用
抹茶の香りと麦の柔らかな甘み、
ピリッとした苦みのあるすっきりとした味
以上のことより日本茶をビールに加えるなら断然ほうじ茶です。
ただやはり日本茶を代表する煎茶を使いたいという考えの方が多いと思う。
なので、煎茶を使う方法、注意する点などを解説していく。
― 煎茶とビール ―
先ほど述べたように、煎茶をビールに加えるのは難しい。だが、無理というわけではない。
使い方やその特徴を分かればとても良いビールを作ることができる。
最初に言っておくが色は無理だ。煎茶の色は抹茶のような緑ではなく少し緑色をした黄色。
ビール自体はしっかりとした黄色から黒色。このビールに煎茶を加え煎茶の色を出すというのはまず無理である。
ハードセルツァーのような透明な液体であれば可能だがビールでは無理である。
また、お茶を使用することによりビールは濁った仕上がりになる。
お茶に含まれるタンニンなどによりクリアな色にはならずヘジーIPAやホワイトエールのようだ。
フィルターや清澄剤などでとることはできるが、香りが弱まるのであまりおすすめしない。
EIGHTY EIGHT(奈良醸造)
奈良県産の碾茶を使用臼で挽く前の抹茶である碾茶を使用することにより
粉末がビールに混ざることなく少し濁った色の仕上がりになる
ほのかに緑茶の青っぽい香りがあり、セゾン独特のイーストの香りもする
渋みはなく柔らかな苦みとすっきりとした味
煎茶の香りはほうじ茶や紅茶などに比べると非常に弱い。だが独特の青っぽい香りがありそれが煎茶の大きな特徴でもある。この香りをビールに加えるには単純に量を入れてしまえばでる。
ただ、加えるタイミングが重要だ、例えばお茶なので煮込んでしまったほうがいいと考え、煮沸や糖化中に加えるという考えがあるかと思う。だが、煎茶の抽出温度は70℃前後であり決して沸騰させた100℃のお湯ではない。
高温になってしまうとせっかくの香りが飛んでしまううえ、苦みや渋みが強烈に出てきてしまう。また、煎茶の抽出時間は1-2分であり長い時間に込んでしまうと先ほどと同様に渋みや苦みが出てきます。
以上のことにより糖化や煮沸中に煎茶を入れることはお勧めしない。
発酵中に入れるという考えもあるが、イーストが香りを吸着してしまいせっかくの香りが弱くなってしまうし、お茶には抗菌作用がある。
それがどのようにイーストに影響するかも分からないのでお勧めはできない。
以上のことよりお勧めの投入時期は発酵後期または貯酒の段階だ。
温度が冷えているので香りや味がつかないのではないかと考えてしまうかもしれないが、冷水で煎茶を抽出した場合1日以上の時間はかかってしまうが、苦みや渋みがほとんど出ずに香りをしっかりとつけることができるのでとても理想的だ。
ではその時期にどのようにして煎茶を加えればいいのか。おすすめは煎茶の茶葉をネットなどに入れてそのまま投入する方法だ。水やお湯で抽出したものを加えるという方法もあるが、やはりしっかりと香りをつけたい場合は直接投入することがおすすめだ。
雑菌の心配をする方もいると思うが茶葉には抗菌作用がある上に乾燥しているのであまり心配する必要はないと思う。もしそれでもリスクを負いたくない場合は軽く蒸気で蒸す方法もおすすめだ。少し香りは飛んでしまうが、乾燥した茶葉が少しほぐれるので漬け込み期間が短くなる。
味、香りをよりしっかりとつけたいという場合は醸造所でやるのは少し難しいが、煎茶の製造時に軽く焙じてもらうのも手だ。あまりやりすぎるとほうじ茶になってしまうが、軽くやると香りが強くなり、味もよく出る。
また、味をしっかりと出す場合はお茶の棒(茎)を通常よりも多めに入れる方法だ。葉っぱの部分よりも茎の部分のほうが甘味やうまみが強いのでより味をしっかりと出すことができる。
Sleepless in Shimada(193 VALLEY BREWING)
島田産のかぶせ茶を使用
抹茶のように光合成をあまりさせない茶葉を使った
かぶせ茶を使っていることにより抹茶に近い香りが特徴的
味はすっきりドライでほのかにお茶の渋みを感じる
煎茶は日本中いろんなところで作られている。そしてやはり自然のもの、その地域の気候や土壌、また品種によって大きく味が変わる。
自分の地域の良さを伝える手段にもなる一つの手段として、地元のお茶を使ったビールを作ってみてはいかがですか。