フルーツビールについて
―歴史から見る現在のフルーツビール―
世界中に現在多くのフルーツビールがあります。
日本でもたくさんの醸造所がフルーツビールを醸造しています。
そんなフルーツビールについて今回は歴史の面から紹介していきます。
―歴史―
フルーツビールの歴史はとても古いです。
もっとも古いフルーツビールはベルギーのクリークビール(チェリー)やフランボワーズビール(ラズベリー)で、ランビックをベースにフルーツを漬け込み作られています。
しかし長らくはチェリーとラズベリーの2種類のフルーツしか使用されていませんでした。
1980年、初めてこの2種類のフルーツ以外のフルーツが使用されビールが作られました。
それはリンデマンス醸造所(Brouwerij Lindemans・ベルギー)の作ったリンデマンス・カシス(Lindemans Cassis)とデ・トロフ醸造所(Brewery De Troch・ベルギー)の作ったシャポー・バナナ(Chapeau Banana)です。
なぜこの2つのビールが作られたかというと、1950年代以降のヨーロッパの飲料品事情によります。
それ以前までベルギーで作られていたクリークビールやフランボワーズビールはランビックをベースに地元でとれた酸味の強いサワーチェリーやラズベリーを使用した酸味の強いビールでした。
これはランビック自体がワインのように食事に合わせて飲まれていたので、食事の味に合わせやすく酸味はしっかりあるが甘味などはほとんどなく、またワインのようにきれいな赤色をしたビールということが重要でした。
しかし、時代は変わりヨーロッパにもコーラなどのようにしっかりとした甘みと香りのあるジュースが広まり、若者はそれを好んで飲み、酸味が強いランビックは好まれなくなってきました。
そこで、1980年に行われたビールのイベントで何か目玉になるビールを作ろうと、リンデマンス醸造とデ・トロフ醸造所が新たなフルーツを使ったビールを開発しました。
この開発において重要だったのは、コーラなどのジュースの大きな特徴であった甘味と香りをフルーツビールでも出すというところです。
試行錯誤のすえ、使われたフルーツはカシスとバナナでした。
カシスの方は少し予想のつくフルーツの気もします。
チェリーやラズベリーと同じくベリー系でしっかりとした赤色、そして甘味に強い香りと理想的なフルーツでした。
それにほかのお酒にも使用されていたのも大きな要因です。
一方でとても意外なのがバナナです。
ヨーロッパでとれるフルーツではないうえに、お酒に使用されることはほとんどないフルーツです。
しかしデ・トロフ醸造所はこのバナナに目をつけ数百キロのバナナをビールに入れるために仕入れました。
当時としても、また今ですらとてもぶっ飛んだ行動です。
ただ、このバナナという突拍子もないフルーツを使用したことが今のフルーツビールの大きな原点になっていると思います。
バナナはしっかりとした甘みとあの強烈な香りが特徴的です。
それがビールに合わさることによりとてもトロピカルな香りが立ち込めるビールになりました。
ビールに対してバナナを代表とするトロピカルなフルーツがとてもよくあったのです。
それに目をつけどんどんトロピカルフルーツをビールの原料に使用するようになりました。
バナナに始まり、マンゴー、パパイヤ、ココナッツ、パッションフルーツなどです。
もしもデ・トロフ醸造所が新たなフルーツビールを作るというときにバナナを使用しなければトロピカルフルーツをビールに使うということにはならなかったかもしれません。
そしてそのカシスとバナナという2種類のフルーツビールの誕生を機に、新たに多くのフルーツを使ったランビックが誕生しました。
リンデマンス醸造では、カシスの後にピーチ、リンゴ、ストロベリーなどが、デ・トロフ醸造所ではバナナの後にパイナップル、イチゴ、アンズ、ミラベル、ピーチ、レモンなどを使用したビールが誕生しました。
そしてランビック以外にもフルーツを入れたビールが誕生しました。
それは、先ほど述べて時代背景により少しでも若者のビール離れを抑えるということによるものです。
そして大成功を収めたのがフルーツを加えたホワイトビールです。
小麦を使ったホワイトビールは、フルーティーな味とほのかな酸味とで、女性人気が高いビールでした。
しかしそんなホワイトビールにも時代の波が押し寄せ少しずつ売れ行きは下がっていました。
そんな中、ランビックに倣いホワイトビールにもフルーツを加えるという挑戦が起こりました。
そしてこの組み合わせがとてもよく合い、今ではランビックよりも多くのフルーツを使用したホワイトビールが誕生しています。
もっとも多くのフルーツを使用したホワイトビールを醸造しているのはヒューグ醸造所です。
FrliとMongozoという2つのフルーツビールの銘柄を持ち(違いはMongozoの方にはキヌアが使われています)チェリー、ラズベリー、リンゴ、パッションフルーツ、イチゴ、マンゴー、サボテン、ピーチ、バナナ、パイナップル、ミラベル、パパイヤなど多くのフルーツを使ったホワイトビールを作っています。
このように、フルーツビールはチェリー、ラズベリー2種類のフルーツを使ったランビックに始まり、ホワイトビールにと形を変えどんどん種類が増えてきました。
しかし、それはビール離れを減らし、少しでも多くの人にビールを飲んでもらおうという考えのもと生まれた挑戦です。
ワインに近づけようとしたり、ジュースに近づけようとしたり、醸造家が試行錯誤の末に生み出してきたものです。
それは現在でも変わらず、海外や日本で多くのフルーツビールが作られる理由にもなっているのではないでしょうか。
では実際醸造において、フルーツビールを作るにはどのようなことに気を付けていけばいいのでしょうか。
ベースとなるビールは何がいいか、フルーツの使用タイミングは、使用するフルーツの種類は、など醸造に関してのことを紹介していきます。