Grain-to-Glass #3
これまでと違うケルシュビール
「One Night in Cologne」
「ブラッセルズビアプロジェクト新宿」代表の小川さんと「横浜ビール (Yokohama Brewery)」代表の深田さんの日本人2人が、ベルギーのビール研修でインスパイアを受けて作った新しい “Kölsch(ケルシュ)” のビールを今回ご紹介します。
ベルギーの国境近くのドイツの街「ケルン (Köln) 」に1日訪れただけで、新しいビール作りのインスパイアを受けたというほど、ケルンのビール文化や「Kölsch」スタイルに惚れ込んだ2人。その異国からヒントを得て作られたのが “One Night in Cologne(ワンナイト イン ケルン)”です。
One Night in Cologne
“One Night in Cologne” は、光り輝く太陽のようなゴールド色に純白のきめ細かい泡がのった、フレッシュなりんごと白桃のフルーツの香りがほのかに香るビールです。炭酸の舌触りにキレのある爽やかさを一口目に感じ、後から淡色モルトの苦味が少しずつ広がります。喉ごしの良さからついついもう一口飲みたくなる、夏の乾いた喉を潤してくれるビールです。
では、横浜で何年もKölschスタイルを作り続けてきた深田さんが、今回新しいビールを作るに至った理由とは何でしょう?まずは、ドイツを代表するKölschビアスタイルとケルンを超えて有名になったケルシュビール文化に迫ります。
「ケルシュビール」とは?
ケルシュビールは、1986年に24のケルシュ醸造家によって調印された「ケルシュ協約(Kölsch Convention)」 によって定義づけされたビアスタイルです。この条約は欧州連合の法律に基づいたもので、ケルン周辺の登録された醸造家だけが「ケルシュビール」と名付けてビールを販売することができるます。登録されていない醸造家によって作られた場合には、「ケルシュスタイルに準ずる」と言うことはできても「ケルシュビール」と名乗ることはできません。2019年2月に日本と欧州間で結ばれた経済連携協定により、日本の醸造家でも「ケルシュ」を名乗ることができないようになっています。
この「ケルシュ協約」によると、今日私たちが親しみのあるケルシュビールは「上面発酵された、明るくて透明な色をした、発酵性の強い、ホップの香りが際立つ、ドイツのビール純粋令1516条に則って醸造されたビアスタイル」だそうです。
また、ケルシュビールは酵母から発生したフルーツの香りがほのかに香る特徴があります。伝統的なケルシュエール酵母株には、甘いリンゴ、セイヨウナシ、桃、白ブドウなどのフルーツの香りを感じることがよくあります。
ケルシュビールは、マイルドから中くらいの苦味を感じつつも、繊細なモルトの味わいが広がることでバランスのとれた味わいを醸し出しています。ライトなボディで炭酸がきいたケルシュビールは、キレのある喉ごしで、爽やかな口当たりで飲みやすく、世界中で夏のエールビールとして人気を集めています。
ビール醸造の長い歴史を持つ「ケルン」
「ケルシュ協約」にしたがって醸造されたケルシュビールは、実はケルンのビール文化の中でも比較的新しいビールで、協約前から続く長いビール醸造文化がケルンの街に存在しています。協約前には、ケルンの街で作られたビールは「ケルシュ (Kölsch)」と呼ばれていました。では実際に、ケルシュとはどのようなビールだったのでしょうか?
文書の記録が残る10世紀前まで遡ると、ケルンでは「Grut Beers (グルート・ビール)」と呼ばれるビールが存在しており、個人または企業の醸造家によって作られていました。このビールでは、“Grut”または“Gruit”と呼ばれるハーブや香辛料を使ってビールの味付けが行われました。グルートビールは通常、ヤチヤナギやノコギリソウ、ローズマリーなどからできており、場合によってはギョリュウモドキやセイヨウネズ、生姜、キャラウェイ、そしてシナモンも含まれています。
しかし15世紀末になって、グルートがビールに使われることが禁じられたこともあり、ホップが代わりとなってビールの味付けやバランスを取るために使われました。文献によると、この当時には「Keute」と呼ばれるビールがケルンで人気だったと言われています。このビアスタイルに似たものが今でもライン川を超えたベルギーにて醸造されており、大麦モルトと40%の麦芽小麦を混ぜて醸造されています。麦芽や窯乾燥が十分に行われていない淡色のモルトを使うことで、ゴールドの薄い色を出すことができ、当時出回っていた濃い色のビールよりも美しいと考えられていました。特徴に幅をきかせることで、ベルギー白ビール、北ドイツのブロイハン、ババリアのヴァイツェンなどの小麦ビールが開発され、ヨーロッパ中で人気を集めました。
この「Keute」ビールの後に開発されたのが、「Wiess (ヴァイス)」です。ヴァイスはケルン地方の方言で「白」を意味しており、TettnangerやHersbruckerのドイツホップの特徴が強い、明るい淡色ビールです。ヴァイスは、現在もケルン周辺にて醸造されているビアスタイルです。今日のヴァイスは、全体的にケルシュビールと同じ特徴を持ちつつも、20%の小麦モルトが使われ、無ろ過で濁ったゴールドの色合いにキメの細かい泡が光るビールです。
19世紀にラガービールが、発祥地のピルゼン、ウィーン、ミュンヘンから北ヨーロッッパに広がりを見せるなか、ケルシュビールも進化をみせ、やっと現在の完成系に近づきました。特に、モルト製造技術が進化するにしたがって、間接的に窯乾燥させた大麦モルトを製造できるようになったことで、明るい色のビールを作るために小麦を使う必要がなくなりました。小規模な醸造家の中には10%ほど小麦を使うところもありましたが、20世紀にはほとんどの醸造家が100%大麦モルトを使ってケルシュビールを作るようになりました。そして、ろ過の技術が進歩したことで、濁りを一切取り除くことに成功し、今日のような透明な美しいケルシュビール作りを実現しました。
「One Night in Cologne」を醸造
今回作られた“One Night in Cologne”では、ケルシュビールの歴史にちなんで10%の小麦モルトを使うことで、リンゴや桃のフルーティーで優しい香りを加えています。この香りを出すために使われたエール酵母は、伝統的に使われる「WLP029」です。質のいい苦味とクラシックなアロマの味わいを出すために、ドイツのファインアロマホップとして知られる「Tettnang (テトナンガー)」が使われています。
発酵は18°Cの温度で始め、48時間置くことで味の旨味をさらに出し、16°Cまで下げて低い温度で2週間発酵を行うという典型的なケルシュビール作りの手法を使って作られています。発酵後のビールは、タンクの中で6週間成熟させて味のバランスを取り、ろ過をすることなくクリーンで透明なボディのビールを実現しています。SRM(色度数): 2.6
OG(初期比重): 1.042 | FG(最終比重): 1.008 | ABV(アルコール度数): 4.6% | IBU(国際苦味単位): 22 | SRM 3
One Night in Cologneは現在、東京のクラフトビール店や横浜のYOKOHAMA BEER STAND にてお楽しみいただけます。また、10月5日と6日にYokohama Breweryで開催されるYokohama Breweryの20周年パーティーでもお試しいただけます。ぜひ、これらのお店で “One Night in Cologne”と普通のケルシュビールを飲み比べてみてください。同じブランドで同じビアスタイルでも、この2つのビールの違いに驚くこと間違いありません。
One Night in Cologneを自分たちのレストランやバーでも取り扱いたいという方は、Yokohama Breweryまでお問い合わせください。
本場のケルシュビールのままで
「ケルシュ協約」は、ケルシュビールを定義するだけでなく、「ケルシュの伝統的なビールグラスである200ミリリットルの円柱型の細長いグラス」を使うなどの規定も定義されています。
この特徴的なビールグラスは、瞬く間にケルンのビール文化の象徴になりました。ローカルの人たちには「Stange」の名で親しまれるこのグラスは200ミリリットルの円柱型で、ケルシュビールが注がれ、上に2cmの泡フォームをのせて提供されます。軽くて細長いそのグラスの形により、視覚的にもビールのボディの軽さを感じることができます。またグラスの飲み口が狭いことで、光がグラスの中で光り輝き、美しいゴールデン色が現れます。そして背の高いグラスで飲むことで、フルーティーな香りが凝縮して口の中で広がる効果もあります。
細長いグラスの形のおかげで、ビールを早く注ぐことができるだけでなく、1グラスを3〜4口で飲むことができるなど、とても気軽で飲みやすいビールとなっています。その飲みやすさから、ついついおかわりをしたくなるのがケルシュビールなのです。
【豆知識】ケルシュビールの注文
多くのケルンのレストランでは、ケルシュビールのおかわりは注文する前に注いでくれます。
ケルシュビールの「Stange」グラスがあれば、空になると直ぐさま「Köbes」と呼ばれるウェイターさんが近寄ってきて、新しいコースターを置いてビールを注いでくれます。このコースターの数で、最後その日に何杯飲んだかを確認します。これ以上飲めないとなった時には、コースターをグラスの上に置くことで、お勘定となります。
最高のペアリング「Halfe Hahn」
ケルシュビールを飲む夜に一緒に食べたいのが「Halfe Hahn」と呼ばれるサンドイッチです。
作り方はとても簡単で、ライ麦パンとヤングゴーダチーズ、バター、玉ねぎ、そしてマスタードでできています。お好みに合わせて、パンを2つに切って片方にバターを、もう片方にマスタードを塗って、その間にチーズと玉ねぎをはさんで食べるという食べ方もあります。レストランによっては、パプリカパウダーを加えて、辛味を出すところもあります。
このサンドイッチのパンの味わいにより、ケルシュビールのモルトの味わいとの絶妙な組み合わせを楽しむことができます。また口の中でチーズが溶けることで、ミルキーな味わいがケルシュビールのハーブのホップの味わいを際立たせます。マスタードの辛味と玉ねぎ、そしてビールの苦みが合わさることで、さらに旨味が増します。 ケルシュビールと「Halfe Hahn」は、逃せない最高のペアリングです。