【ノルウェービール】
ファームハウスエールの秘密は、ノルウェー伝統の『KVEIK』酵母にあり!?
「KVEIK(カーウィク)」ビールをご存知ですか?
まだ試されていない人にはぜひ試していただきたい、クラフトビール界注目のビールが「KVEIK」ビールです。
「KVEIK」はビアスタイルの一種だとよく思われていますが、実はノルウェーに古くから伝わる酵母の一種なのです。「KVEIK」は「カーウィク」と発音され、 『酵母』という意味のノルディック語の方言に派生しています。
ノルウェーのファームハウスで代々引き継がれてきた「KVEIK」ですが、最近ではノルウェーを出て世界中で使われ始めています。「KVEIK」は特に、アメリカのクラフトビールのトレンドに乗って、クラフトビール醸造者の間でその人気を伸ばしています。
今回はそんな「KVEIK」の起源から特性、使われ方、そして多くの醸造者が期待を寄せる理由について紹介します。
古くから伝わるノルウェーの醸造文化「KVEIK」
ビール醸造はノルウェーに古くから根付く伝統的慣習で、その歴史は紀元前1200年まで遡ります。ビールは祝いやお祭りで飲まれるだけでなく、日常的に消費された飲料でした。
その理由として、塩味が強い魚や肉料理を食べる食生活に起因しているのではと、人類学者たちは推測しています。ビールは正しく発酵されていれば、未処理の水よりも安全で、利尿剤となって体内の塩分を排出するのに役立つからです。
17、18世紀のノルウェーでは、地主にビール醸造が義務付けられ、多くの農家でビール醸造が行われました。この頃、多くのビール醸造では主に大麦麦芽が使われ、さらなる発酵にハチミツやベリーが加えられました。
麦芽は農場で火にかけられて乾燥されたため、スモーキーな味わいのビールに仕上がることが多く、地域によってはハンノキで窯焼きすることで、スモーキーな味わいを強調させる醸造家もいました。
ノルウェーの夏は短くて涼しいため、ホップが育たず、ビールのフレーバーを出すためにその他の添加物が使われました。ジュニパーの葉はよく使われる添加物で、ロータータン(ろ過用の樽)の二重底としても使われました。スプルースの芽や様々な種類のハーブも、ビールのバリエーションを出すために使われました。
ノルウェーのビール農家は、以下の2種類に分類されます。
・Kornøl
麦汁を沸騰しない「生エール」を意味します。この種類のビールは薄い色と濁りが特徴で、甘い味わいと、ジュニパーの葉と酵母のアロマで香り高く仕上がります。
・Vossaøl
「ボス(Voss)地域のエール」を意味し、麦汁を長く沸騰させることで濃い色あいに仕上げます。赤色から茶色に変わる、透き通った色合いに、ジュニパーの葉と酵母のアロマで香り高いビールです。
各地域の「KVEIK」バリエーションが、農家のビール醸造に何世代にも渡って使われてきました。今でもノルウェーの醸造家の間では、このユニークな特徴を持つエールビールの秘訣「KVEIK」が家族、友達の間で受け継がれています。「KVEIK」は、今では様々な種類のものが使われています。現在醸造所で使われる「KVEIK」の酵母菌株は、単一のものではなく、複数の種類のものを混ぜて作られています。「KVEIK」の中には、バクテリアが含まれているものもあります。ほとんどの「KVEIK」菌株は似た特性を見せますが、バルト諸国のラトビアやリトアニアで使われる酵母と比べると、その違いが明確に分かります。
「KVEIK」が特別な理由とは?
「KVEIK」は、北欧やバルト諸国のビール農家でも使用されている酵母ですが、最近の研究によるとノルウェーで使われる「KVEIK」は、他地域とは別の品種の酵母であることが明らかになっています。これらの品種は似た味わいや、熱耐性のある早い発酵特性、乾燥特性、非フェノール性など、共通点が多く見られます。「KVEIK」自体が、遺伝的に非常に多様性があり、他のビール醸造に使われる酵母とは異なる特性を持ちます。
「KVEIK」の独特な特性を理解するためには、まずエールビール酵母発酵についてまず説明しましょう。
エール酵母は通常25ºC~35ºCの環境で活発に活動します。この温度で、アルコール度数5%のビールを作ろうとすると発酵に3〜5日間かかります。温度をあげると、酵母発酵は早く行われ、短い時間で発酵が完了します。しかしその場合、ほとんどの場合においてフェノールやフーゼルアルコールの異味が含まれてしまいます。温度設定が40ºC以上まで上がると、ほとんどの酵母を殺してしまうことになります。また、よく使われる酵母株は高アルコールを好まず、アルコール度数が10%近くまで上がることは好まれません。
ーでは、「KVEIK」酵母はどうでしょうか?
「KVEIK」 酵母株を使った場合、安定した透き通った味わいのビールを、発酵温度20ºC〜43ºCで醸造することができます。ほとんどの「KVEIK」酵母株はフェノールが発生せず、素朴でフローラル、フルーティーな香りを醸し出します。酵母の増殖時にフレーバーを出すために、発酵時に酵母の投入量を減らして、 強い炭酸ガスを含められます。また「KVEIK」 は、高い温度での発酵が可能で、その他の種類の酵母と同様、発酵時は同じ温度を保つことが好まれます。
酵母投入から早くて30分後には、強い発酵活動を意味する、高温で活発な泡立ちを見ることができます。「KVEIK」を使った発酵は1〜2日で終わることが多く、さらに1週間かけてフレーバーを成熟させる必要はありません。ノルウェーでは、エールによっては3日以内で飲むことができるビールもあります。
「KVEIK」は、16%までのアルコール度数で作ることができ、高比重のビールに最適な酵母です。さらに、「KVEIK」 酵母株はすぐに懸濁状態でなくなり、 他の酵母よりも凝集性が強い特徴があります。そのため、透き通ったクリアなビールを、洗浄やろ過をすることなく実現できます。これらの特性を持った「KVEIK」を使ってビールを醸造する人が増えており、ファームハウスエールのスタイル以外にも、人気なビアスタイルと混ぜて商業用にビール醸造が行われています。「KVEIK」は、ファームハウスエール以外に様々なスタイルに使われており、これまでアメリカンIPA、ニューイングランドIPA、イギリスビール、サイダー(りんご酒)、ミード(蜂蜜酒)、さらには蒸溜酒の麦芽の液(マッシュ)にも使われています。
以下は、「KVEIK」とその他のよく使われるビール酵母を比較した表です。
KVEIK酵母 | ブリティッシュ・エール酵母 | アメリカン・エール酵母 | ベルギーエール酵母 | ドイツ小麦ビール酵母 | ラガー酵母 | |
---|---|---|---|---|---|---|
商品名の一例 | WLP518
Opshaug Farmhouse |
WLP002
English Ale |
WLP001
California Ale |
WLP565 Belgian Saison I | WLP300
Hefeweizen |
WLP800
Pilsner Lager |
発酵温度 | 20〜40ºC | 18〜22ºC | 20〜23ºC | 20〜25ºC | 18〜22ºC | 8〜12ºC |
アルコール度数 | 12〜16% | 5〜10% | 8〜12% | 5〜10% | 5〜10% | 5〜10% |
糖発酵度 | 70〜85% | 60〜70% | 70〜80% | 65〜80% | 70〜75% | 70〜80% |
凝結性 | 非常に高い | 高い | 普通 | 普通 | 低い | 普通〜高い |
発酵時間 | 2〜3日 | 3〜5日 | 3〜5日 | 3〜5日 | 3〜5日 | 7〜10日 |
フェノールの生産性 | なし | あり | あり | 強くあり | あり | あり |
WLP518 ーウプスハウのファームハウス酵母ー
ホワイトラボでは、「KVEIK」酵母やノルウェーのファームハウスエールの歴史を調査する、ノルウェー出身の研究者Lars Marius Garshol氏の協力を得て開発を行っています。Lars氏の紹介で、ホワイトラボは、西ノルウェーに位置するストランダ地方のHarald Opshaug氏と共同する機会が与えられました。 Harald氏は、「KVEIK」酵母のみを使って醸造を行っており、様々な酵母を試したのち、90年代中旬に谷を超えた農家から譲り受けた酵母にたどり着きました。
Harald氏はこれまで、「Kornøl」醸造家と同じように、麦汁を沸騰させない「生エール」(Raw Ale)をジュニパーの枝や「KVEIK」を使って醸造してきました。
ジュニパーの枝は最初に沸騰され、65ºCで潰されます。麦汁濃度は通常15〜17°Pです。酵母投入温度は23〜24°Cに設定されていますが、発酵時に温度は33°Cまで上がることがあります。30時間後に酵母の収穫を行い、48〜50時間後にはビールが完成します。
Harald氏は、ホワイトラボとの共同により、今回この酵母を醸造家に販売することが実現しました。2019年4月23日に、ホワイトラボよりウプスハウのKVEIKである「WLP518」が販売開始される予定です。
WLP518の詳細
奨励するビアスタイル:IPA、ペールエール、ファームハウスエールまたはセゾン
アルコール度数:中〜高(8〜12%)
糖発酵度:70〜80%
凝結性:高い
最適な発酵温度:25〜30℃
酵母株の説明:私たちの友人であるLillestrøm出身のLars Marius Garshol氏から仕入れた酵母株で、ノルウェーのウプスハウ農場で独自に洗練され使われてきた酵母株です。この酵母株は1990年代に「KVEIK」スタイルのビールを作る際に使われました。このクリーンな発酵酵母は、33°Cまでの温度に耐えることができ、発酵を48〜50時間で完了することができます。