いま以上にトロピカルな香りのヘジーIPAを
~WLP077 Tropicale Yeast Blend~
―バイオトランスフォーメーション―
醸造の世界に少しでも関心があれば、「バイオトランスフォーメーション」という言葉を聞いたことがあるはずだ。「バイオトランスフォーメーション」とは、発酵中に酵母がホップ化合物に作用することを言う。酵母は、様々なホップ化合物に作用し、以前は存在しなかった芳香族化合物に変化させる能力があるという新しい研究結果が発表され、このアプローチは、ジューシーなIPAを作る方法として人気が出てきている。
酵母の細胞には、細胞内でさまざまな化学反応の触媒として働く多くの種類の酵素が存在し、多くの場合その活性のレベルはさまざまだ。これらの酵素の中には、結合したホップ化合物の変換を誘発し、独特のアロマをもたらすものがある。このバイオトランスフォーメーションのプロセスで確認された主要な酵素には、β-グルコシダーゼとβ-リアーゼが含まれる。
β-グルコシダーゼは芳香族であるテルペンを非芳香族であるグリコシドの前駆体から遊離させる。例えばゲラニルグリコシドからゲラニオールを、β-リアーゼは結合チオール(硫黄系化合物)を遊離チオール(パッションフルーツやグアバのアロマ)に遊離する。酵母のβ-リアーゼ活性は、結果としてパッションフルーツやグアバなどのトロピカルな特徴をもたらすことから、最近、醸造研究の焦点となっている。
―結合型チオール―
トロピカルなアロマをもたらす遊離チオールは、人気のある数種類のホップに含まれている。しかし、その他の多くのホップ品種には、無臭の結合チオールが多く含まれている可能性がある。高β-リアーゼ株の酵母とこれらのホップ品種の相互作用により、結合チオール化合物が遊離チオールに解放され、新たなトロピカルアロマが得られることが分かっている。
※安価なホップは、生育状況や季節によってチオール濃度が変化することがある。ホップに含まれる結合チオールのレベルは、出来上がったビールのパッションフルーツやグアバのような香りの強さと直接関わることになる。
―IRC7―
β-リアーゼ酵素活性は系統に依存し、IRC7 遺伝子にまでさかのぼることができる。ホワイトラボ社では、オレゴン州立大学(Dr. Chris Curtin)およびVirgil Gamache Farms, Inc.と共同で、ホワイトラボ社の菌株のβ-リアーゼ活性のスクリーニングに着手した。
その結果、分析した菌株のβ-リアーゼ活性は様々なレベルであることがわかった。この情報をもとに、酵素活性の高さが遊離チオールに直結し、ひいては完成したビールにおけるトロピカルな香りにつながるという説を検証したいと考えた。
―活性測定―
まず、酵母細胞から酵素を抽出して活性値を測定することから始めた(Cordente et al.2019)。これらを既知の高活性の対照であるMaxithiol、および既知の低活性の対照であるS-288Cと比較した。図1に見られるように 相対活性が1より高い菌株を高活性酵母とした。
―醸造試験―
彼らは、このような菌株を使って醸造を行い、理論を検証し、ビール含まれるこの特性が認識可能かどうかを判断した。カスケード、シムコ、モザイクをワールプールとドライホップで添加し、新しい高活性B-リアーゼブレンド酵母であるWLP077 Tropicale Yast Blendと、低い酵素活性を示したWLP001 California Ale Yastを使い、1つバッチを2つに分けての発酵をおこなった。発酵後、これらのビールをガスクロマトグラフで遊離チオール濃度を分析し、ビール官能検査を実施した。
グレープフルーツやパッションフルーツのアロマである3-sulfanylhexan-1-ol Acetate(3SHA)などの遊離チオールのレベルがWLP077 Tropicale Yast Blendでは、閾値を越えていた。
Fig 2. GCで分析した遊離チオール3SHA。フレーバーの閾値 5ng/L
最後に、分析結果と実際のビールの味の違いを照らし合わせるために、官能検査を実施した。
横に並べての試飲比較から、以下のようなテイスティングノートを収集し、まとめた。
WLP001 – 樹脂、ダンク、パイン
WLP077 – パッションフルーツ、ピーチ、バニラ
この試験の結果から、WLP001 California Ale Yeastは、カスケードホップからくる樹脂とダンクの香りがする西海岸IPAに似ていると感じられ、WLP077 Tropicale Yeast Blendは、ジューシー、パッションフルーツ、バニラと表現され、苦味の余韻も少なかった。
以下の質問形式の調査結果(ASBC Sensory-6)、パッションフルーツとグレープフルーツの香りの強さにプラスの有意差が認められた。
パッションフルーツとグレープフルーツ の強さは、どちらのサンプルで強かったか? |
WLP001 California Ale Yeast | WLP077 Tropicale Yeast Blend |
6 | 19 |
有意性水準 ≤ 0.05
―まとめ―
バイオトランスフォーメーションが高いだけでなく、Hazy IPAで知られるアロマとフレーバーのバランス優れたオールナチュラルなブレンドの酵母を目指したこの新しいブレンドイーストで、ホップのどんな新しい味と香りを引き出してくれるのか、試してみてください!
WLP077の詳細
奨励するビアスタイル:アメリカンIPA、ダブルIPA、ヘジー/ジューシーIPA
アルコール度数:中〜高(8〜12%)
糖発酵度:75〜82%
凝結性:低い
最適な発酵温度:17〜23℃
酵母株の説明:高い酵素B-リアーゼ活性をターゲットに、結合したチオール化合物の遊離を助けるように厳選された非遺伝子組み換え酵母菌株をブレンドしています。パッションフルーツ、グレープフルーツ、マンゴーなどのトロピカルなフレーバーとアロマのバランスを提供し、ジューシーでハジけたIPAに最適です。